朝のサイクリングでまた財布を拾った。
家のカギが付いた財布で、中には一万数千円と小銭とスーパーのプリペイドカードが入っていた。
「札だけ持ち逃げしろ」
「いや、警察に届けろ」
二人の私がケンカし始める。
「お前無職だろ。臨時収入じゃないか」
「いや、人として終わるぞ」
実は私は数か月前にも財布を拾ったことがあった。中身は小銭入れだったが、一万円札が入っていた。そのときは警察に届けたのだが、その後何もいいことがなかった。それどころか、今度は自分がスイカを落としてしまって、チャージしていた一万円強を拾った誰かに全部使われてしまったのだ。良いことしたって何も報われないのさ。競馬だって全然当たらんし。
けっきょく私は妥協案をとることにした。つまり、財布は警察に届けるが、拾得者の権利で何割かもらう案だ。
「すいませーん、財布拾ったんですけど」
「ありがとうございます。一緒に中身確認しましょう」
「これって何割かもらえるんですよね」
「はい、その権利はあります」
「どうやってもらえるんですか?警察から振込とかされるんですか?」
「持ち主が現れなかった場合は、お金はすべてもらえる権利があります。現れた場合は当事者同士での話し合いになります。今回はスーパーのプリペイドカードに名前の記載があるので、店に確認すればすぐに持ち主の方が現れるとは思いますが」
「話し合い?」
「はい。警察は話し合いには関与しません」
「どうやって話し合いをするんですか?」
「あなた様の連絡先を持ち主に教えるので、連絡をとりあっていただくことになります」
「あ、そうですか。じゃあいいです。そこまでするのは手間ですし」
もらえないのと同じじゃないか。
けっきょく警察では書類書くのに40分も待たされてしまった。
財布拾うとロクなことがない。
警察行くと時間はかかる。
持ち逃げするのは気が引ける。
ほったらかしにするのも気になる。
で、金はもらえない(そこまでガッツくメンタルがない)。
届けたって、別に運気が上がるわけでもない。
届けたって、自分が落としたとき届けられるわけでもない。
私にできることは、持ち主が奇跡的に現れないことを祈るくらいである。
次財布拾ったら、札だけ取っておこうかな。いや、その前にもう財布落とすのやめてくれ。見つけた人がかわいそうだから。
それか、落とすならもっと大金にしてくれ。大金なら三割もらうために当事者間で話し合うから